logo logo_atte 日記 随筆 何処
2020-12-23 12:40:14 JST
芦辺拓『紅楼夢の殺人』4/5点。今までにない探偵像であった。主人公が属する貴族社会においては、上級の人間による殺人は罪に問われない。主人が使用人を殺したとしても、それは使用人の不始末であり、不始末でさえない快楽殺人であったとしても権力で握りつぶせる。よって殺人者が犯行を隠蔽する必要はないのでトリックも無用である。この舞台設定は秀逸で、トリックがあるならばそれは犯人ではなく探偵が計画したものであり、トリックによって犯人に利する(共犯?)状況を探偵自身が提供せざるをえない。ところが、犯人にとってはトリックも共犯も大きなお世話であるがゆえに、逆に犯人を追い込んでいくという見事な構図になっている。なんとも寂しい結末は必然だろう。